ドラマや恋愛リアリティショーが作る「普通」|作品と現実がずれる場所
見終わったあと、自分の関係が急に物足りなく感じる。作品には省略と編集があり、現実とは作りが違います。楽しむことと基準にすることを分けるための整理です。
見終わったあとに、自分の関係が薄く見える
面白かったはずなのに、エンドロールのあとで少しだけ気持ちが沈む。画面のなかの二人が交わしていた言葉や視線と比べて、自分の関係が味気ないもののように思えてくる。恋愛を扱った作品を見たあとに、こういう感覚になったことのある人は少なくないはずです。
これは作品が悪いわけでも、こちらが感化されやすいわけでもありません。物語と現実では、そもそも作りが違います。何が違うのかを一度言葉にしておくと、作品は作品として楽しめるようになります。
物語には、必ず「省略」がある
二時間の映画にも、十話のドラマにも、収められる時間には限りがあります。だから作り手は削ります。削られるのはたいてい、同じことの繰り返しや、決着のつかないやりとりや、退屈な生活の時間です。
けれど現実の関係は、その削られた部分でできています。何度も同じ説明をする、言った言わないでこじれる、特に何もない夜が何百回も続く。作品に出てこないのは、それがつまらないからであって、間違っているからではありません。
- 描かれるのは、関係が動いた瞬間だけ
- 動いていない期間は、カットか短い場面転換で処理される
- 現実の関係は、その「動いていない期間」の総量のほうが圧倒的に長い
恋愛作品がよく使う型と、現実での見え方
物語を成立させるための約束事が、いつのまにか関係の理想像として持ち込まれることがあります。よく使われる型を並べてみると、どこが物語の都合なのかが見えやすくなります。
| 作品でよく使われる型 | 物語上の役割 | 現実に持ち込むと起きること |
|---|---|---|
| 言わなくても伝わる | 説明の場面を省ける | 話し合いを省いてすれ違う |
| 運命的な出会い | 物語の始まりを強くする | うまくいかない=相手が違う、と考えてしまう |
| 障害を越えて結ばれる | 山場が作れる | 揉めていないと本物でない気がしてくる |
| 結ばれた時点で終わる | きれいに閉じられる | 続いていく期間の作り方を知る機会がない |
| 嫉妬が愛情の証 | 感情の強さを見せられる | 束縛や監視を肯定する材料になる |
リアリティショーの「リアル」は編集されている
台本のない出来事を撮っている番組でも、放送されるのは撮れた素材のごく一部です。どの発言を残すか、どの順番で並べるか、どこに音楽を当てるか。その選択によって、同じ場面がまったく違う意味になることがあります。
出演している人たちは、観察されている状態で過ごしています。カメラのある場所での振る舞いを、そのまま日常の基準として受け取ると、比べる相手を間違えることになります。
- 映っていない時間のほうが、圧倒的に長い
- 並べ方によって、因果関係は後から作れる
- 出演者への感情移入と、出演者への評価は切り離して考える
描かれ方は、時代とともに変わってきた
少し前の作品を見返すと、いま見ると引っかかる場面に出会うことがあります。強引に迫る場面が愛情表現として描かれていたり、断りきれない状況が笑いとして処理されていたり。当時はそう扱われていた、というだけの話です。
近年は、同意をどう描くか、力関係をどう扱うかについて、作り手の側でも議論が積み重ねられてきたと言われています。作品は社会の見方を映すと同時に、見方を作る側でもあります。だからこそ、古い作品を否定するのではなく、いま自分がどこに違和感を持ったかを見ておくほうが役に立ちます。
「楽しむ」と「基準にする」を分ける
作品に心を動かされることは、何も問題ではありません。困るのは、動かされた気持ちをそのまま現実の採点に使ってしまうときです。自分の関係を作品と並べて減点していくと、実際には何も起きていないのに、満足度だけが下がっていきます。
見終わったあとに、「これは物語の都合だった部分はどこか」と一度だけ考える。それだけで、感情は残したまま、基準だけを手元に戻せます。
- 心が動いた場面と、真似したい行動を分けて考える
- 「うちにはこれがない」ではなく「これは面白かった」で止める
- 現実で試したいことがあるなら、相手と話す前提の話として持ち出す
作品が、言葉を貸してくれることもある
一方で、物語には別の働きもあります。自分のなかで形になっていなかった感情に、名前がつく瞬間です。登場人物の一言で、自分が何に傷ついていたのか、何を望んでいたのかが急に分かることがあります。
そのときは、作品を基準にしているのではなく、道具として使っています。借りた言葉を持ち帰って、自分の状況に合うかどうかを確かめる。合わなければ捨ててよい。この使い方であれば、作品は関係の役に立ちます。
見たあとに気持ちが大きく乱れるとき
特定の場面を見たあとに、動悸がする、眠れない、過去の出来事が繰り返し思い出される。こうした反応が出ることがあります。これは感受性の問題ではなく、体のほうが強く反応している状態です。
無理に最後まで見る必要はありません。途中で止めても、しばらく距離を置いても構いません。その反応が続いたり、日常に影響が出ていたりする場合は、一人で扱おうとせず、専門の相談先に話してみてください。