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コラム

痩せろとは言われていないのに、そう聞こえる|広告の中のからだを読む

最終更新 2026-08-26読了8

広告や宣伝の画像は、直接なにかを命じてはきません。それでも見た後に自分の体が気になるのはなぜか。表現の仕組みと、距離の取り方を整理します。

名指しされていないのに、自分のことだと感じる

電車のドアの上、動画の途中、アプリを開いた瞬間のバナー。そこに並ぶ言葉は、たいてい前向きです。もっと自由に、もっと自分らしく、あなたのままで。誰かを責める言い方はしていません。それでも見た後に、鏡の前で立ち止まる時間が少し伸びることがあります。

命令されたわけではないのに、自分に足りないものを数え始めている。この感覚は、意志が弱いから起きるものではありません。そう受け取るように設計された表現を、設計どおりに受け取っているだけ、という側面があります。

ここでは、広告や宣伝の中で体がどう扱われてきたのかと、見る側として持っておける距離の取り方を整理します。特定の企業や商品を批判するための文章ではありません。

まず「不足」が置かれる

何かを勧める表現は、多くの場合、先に不足を提示します。今のままでは足りない状態があり、その隙間を埋めるものとして商品が置かれる。この順番自体は、傘でも椅子でも同じで、それ自体が悪いわけではありません。

ただ、扱う対象が体になると事情が変わります。傘は買えば手に入りますが、体は買い替えられません。不足として示された部分は、買った後も自分の一部として残り続けます。だから、体を題材にした表現は、見終わった後の残り方が長くなります。

語り口は、時期によって変わってきた

同じ「体を良くする」という話でも、前面に出る言葉は入れ替わってきたと言われています。下の表は、よく見かける語り口の整理です。年代を厳密に区切るためではなく、言い方が変わっても構造は残ることを見るために並べています。

新しい語り口が出てくると、前の語り口が乱暴に見えます。ただ、見る側に「今のままでは足りない」と感じさせる部分が変わっていないなら、受け取った後に起きることはあまり変わりません。

表に出る言い方何を示しているか受け取る側に残るもの
理想の形を示す到達点を一つに定める自分との差を数えてしまう
努力を称える足りない部分は努力で埋まるとする埋まらないのは自分のせいだと感じる
ありのままでいい肯定の言葉で始める肯定した上で商品を勧める形は残る
健康のためと言う見た目の話を体調の話に置き換える断りにくくなる
自分へのごほうび消費を自己ケアとして示す買わない選択がケア不足に見える
ここで整理しているのは表現の傾向であって、こうした言い方をする商品がすべて不誠実だという意味ではありません。仕組みを知っておくと、選ぶときの材料が一つ増える、という話です。

「そのままでいい」も、売り文句になる

近年は、多様な体型や年齢を扱う表現が増えたと言われています。これまで表に出にくかった姿が並ぶこと自体には、見る人の安心につながる面があります。

一方で、肯定から始まる言い方は断りにくくもなります。否定されていないぶん、勧められているという実感が薄れ、いつの間にか同じ順番に乗っていることがある。肯定の言葉が付いているかどうかではなく、その後に何を勧めているかを見るほうが、判断の材料になります。

見るときに置いておける問い

全部を疑いながら暮らすのは現実的ではありません。ただ、気になった表現に出会ったときだけ、いくつか問いを当ててみると受け取り方が変わります。

  • 誰が作って、何を売っている表現か
  • 良くなると言っている部分は、見た目の話か、体調の話か
  • 向かない人・使わないほうがいい場合の説明があるか
  • 急がせる言葉(今だけ、手遅れ、など)が入っていないか
  • この表現を見る前から、自分はそこを気にしていたか
健康や体調に関わる商品・施術を検討するときは、宣伝の文言だけで判断せず、医療機関や専門家に相談してから決めてください。断定的に効果を約束する表現には特に注意が必要です。

自分の基準が、どこから来たかを見る

最後の問いは、いちばん効きます。もともと自分が気にしていなかった部分を、見た後から気にし始めたのなら、それは自分の中から出てきた基準ではなく、外から渡された基準ということになります。

渡された基準が全部まちがいだとは言えません。知らなかったことを知る入り口になることもあります。ただ、どこから来たかを分けておくと、追いかけるかどうかを自分で決められます。人から渡された物差しで採点し続けると、いつまでも合格点が動きます。

考え方より、量を減らすほうが早い

受け取り方を鍛えて対抗しようとすると、見るたびに考える作業が増えて、それ自体が疲れます。実際に効きやすいのは、目に入る量そのものを減らすことです。おすすめの並ぶ画面を開く時間帯を決める、寝る前は見ない、気分が落ちている日は買い物系の画面を開かない。

気持ちが弱っている日ほど、不足を示す表現は刺さります。そういう日に判断をしないで済むようにしておくのは、意志の問題ではなく段取りの問題です。

見え方は変わるが、体は自分のものであり続ける

表に出る理想像は、時期によって入れ替わります。数年前に良いとされた形が、今は別の形に置き換わっている。入れ替わり続けるものに合わせ続けるのは、原理的に終わりがありません。

自分の体を、評価される対象としてだけ見なくてよい。動きやすいか、休めているか、痛いところはないか。外から渡される基準とは別に、自分で確かめられる基準を持っておくと、広告の言葉が届く範囲は少しずつ狭くなります。

体調や見た目の変化が急に起きた場合は、表現の話とは切り離して、早めに医療機関で相談してください。

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