「触れられたい」は甘えではない|接触と安心をめぐる一般知識
人に触れられない時期が続くとつらくなる。スキンハンガーと呼ばれる感覚と、接触が心身に及ぼす働きについて、分かっていることと分かっていないことを分けて整理しました。
触れられない時期が続くと、何かが減る
ひとり暮らしが長い、家族と離れている、パートナーがいない。理由はさまざまですが、人に触れられる機会がないまま何か月も過ぎることがあります。困っているわけではないのに、なんとなく消耗している。そんな感覚を持つ人は少なくありません。
この状態は、寂しさという言葉ではうまく説明できません。話し相手がいないこととも少し違います。会話は足りているのに、皮膚のレベルで足りていない、という感じ方に近いものです。
スキンハンガーという言葉
近年、こうした状態を指して「スキンハンガー」「タッチスターベーション」といった言葉が使われるようになりました。皮膚の飢え、という意味です。人と触れ合う機会が極端に少ない状態を表す言い方として広まりました。
これは病名でも診断名でもなく、あくまで説明のための言葉です。ただ、名前がついたことで「自分だけの変な感覚ではなかった」と分かる人がいる、という点には意味があります。
皮膚は、情報の入り口でもある
皮膚は体の表面を守る器官であると同時に、外の世界を受け取る感覚器でもあります。ゆっくりと優しく撫でられるような触れ方に反応する神経の仕組みがあることが知られており、こうした接触は心地よさとして感じられやすいと言われています。
また、安心できる相手との接触が緊張の緩みにつながるという説明も、一般によくなされます。ただし、どの程度・どういう条件でそうなるのかについては、まだ研究が進んでいる途中の領域です。断定的な効能として受け取らないほうが安全です。
触れ合いの形はひとつではない
触れられることを性的な接触と結びつけて考えると、選択肢がとても狭くなります。実際には、日常のなかに含まれている接触のほうが数としては多いはずです。
| 形 | 具体例 | 得られやすいもの |
|---|---|---|
| 日常の軽い接触 | 握手、ハグ、肩に手を置く | つながっている感覚 |
| 施術としての接触 | マッサージ、整体、ヘッドスパ | 身体的な緩み |
| 身近な生き物との接触 | 犬や猫と過ごす | 落ち着き、規則的な生活 |
| 自分で自分に触れる | 保湿、セルフマッサージ、湯船 | 自分を扱う時間 |
| 親密な関係のなかの接触 | パートナーとの触れ合い | 安心と親密さ |
自分で自分に触れることも含まれる
他人がいないと成立しないと思われがちですが、自分の手で自分に触れる時間も、この話のなかに入ります。丁寧に保湿する、首や肩をゆっくりほぐす、湯に浸かる。どれも特別なことではありません。
重要なのは、作業としてこなさないことです。急いで塗る保湿と、自分の体を確かめながら塗る保湿とでは、同じ動作でも残るものが違います。ここは効果の話ではなく、扱い方の話です。
触れられるのが苦手な人もいる
接触が誰にとっても心地よいわけではありません。過去の経験によって触れられることに強い緊張が伴う人もいれば、感覚の特性として苦手な人もいます。どちらも珍しいことではありません。
苦手な自分を直さなければいけない、と考える必要はありません。無理に慣れようとして負荷をかけると、かえって苦しくなることがあります。触れ合い以外にも、安心を得る道は複数あります。
満たされない状態が長く続くとき
触れ合いが足りないという感覚だけであれば、生活のなかで整えられる部分もあります。ただ、眠れない、気力が出ない、涙が止まらない、体調が続けて崩れるといった状態が重なっているなら、それは別の要因を含んでいるかもしれません。
体の不調が気になるときは医療機関(婦人科など)に、気分の落ち込みが続くときは心療内科や精神科、自治体の相談窓口に相談することができます。触れ合いの不足として片づけてしまうと、必要な相談が遅れることがあります。
「誰でもいい」わけではない
この話をすると、とにかく誰かに触れてもらえばよいという方向に読まれることがあります。実際には逆で、安心できない相手との接触は、緊張を増やす方向に働きます。相手が誰か、自分がその状況を選べているか、という条件のほうが先にあります。
触れられたいと思うことは、弱さでも甘えでもありません。ただ、その願いをどこで満たすかは自分で選べます。選べる状態を保っておくことが、いちばん大事な部分だと考えています。